メディカル豆知識

麻疹流行の今、改めて予防接種の重要性を考える

2026.08.01

近年、国内外で麻疹患者の報告が相次ぎ、東京都内でも患者数の増加がみられています。小児科診療に携わる立場としても、本疾患への警戒を改めて強める必要性を感じています。
麻疹は空気感染を主体とする極めて感染力の強いウイルス感染症であり、免疫を持たない人が接触した場合、高い確率で感染するとされています。発熱、咳、鼻汁、結膜充血など、かぜによく似た症状で始まり、その後全身に発疹が出現します。初期には一般的なウイルス感染症との区別が難しいことも少なくありませんが、発疹が出現する前から感染力が強いため、周囲へ感染を広げやすいことが麻疹の大きな特徴です。


また、麻疹は「発疹が出る病気」というだけではありません。肺炎や脳炎など重篤な合併症を引き起こすことがあり、まれではありますが、数年後に亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という進行性の神経疾患を発症することがあります。特に乳幼児期に麻疹へ感染した場合はそのリスクが高いことが知られており、一度発症すると有効な治療法は限られています。このような重篤な合併症を防ぐためにも、麻疹は「かかって免疫をつける病気」ではなく、「ワクチンで予防すべき病気」であると考えています。


診断にはPCR検査や抗体検査などを行いますが、初期には症状だけで診断することは容易ではありません。発熱や発疹があり、麻疹患者との接触歴や海外渡航歴がある場合には、受診前に医療機関へ電話で相談していただくことが重要です。あらかじめご連絡いただくことで、院内での感染拡大を防ぐための適切な対応が可能となります。


予防の基本はMR(麻疹・風疹混合)ワクチンの2回接種です。特に1歳未満の乳児は定期接種前であり、周囲の人々が免疫を持つことで守られています。そのため、お子さんだけでなく、ご家族を含めたワクチン接種状況を確認することも大切です。最近は保護者の方から「子どもの接種回数は足りていますか」「自分にも追加接種が必要でしょうか」といったご相談を受ける機会も増えています。


目黒区では、麻疹対策として定期接種の機会を逃した方などを対象にMRワクチンの公費による任意接種を実施しています。また、麻疹患者との接触が確認された場合には、接触後72時間以内であれば緊急にワクチンを接種することで発症を予防できる可能性があるため、保健所と連携しながら緊急予防接種を行う体制も整えられています。麻疹患者との接触が疑われる場合には、自己判断せず、できるだけ早く医療機関や保健所へご相談ください。


麻疹は多くのお子さんが回復する感染症ではありますが、ごくまれにその後の人生を大きく左右する重篤な合併症を残すことがあります。だからこそ、私たち小児科医は「感染したら治療する」のではなく、「感染させない」ことを何より大切に考えています。流行が報道されている今だからこそ、ご家庭でも母子手帳を開き、お子さんやご家族の予防接種歴を改めて確認していただければ幸いです。地域の子どもたちを守るため、私たちも正しい情報提供と適切な予防に努めてまいります。

 

 

(T・A記)