最近の眼内レンズの進化
2025.10.01
白内障手術の際に眼内に入れるレンズは近年すさまじい勢いで進歩していて、多様化が進んできています。大きく分けて3種類に分かれます。
①単焦点レンズ(従来のレンズ)
これは患者さんが希望するある1点の箇所にピントを合わせるというものです。ピントを合わせた場所以外をはっきりと見るためには眼鏡が必要となります。
例えば遠くに眼内レンズのピントを合わせた場合には近くを見るための老眼鏡が必要となります。一見あまりよくないように聞こえますが、その1点の色の濃淡や見え方のはっきりさは他のどのレンズにも負けません。デザイナーや画家、歯科医師等、1か所の見え方の質を追求する職業の方には単焦点レンズがオススメです。
②回折構造型の多焦点レンズ
こちらには2焦点・3焦点・5焦点といったレンズがあります(遠近両用の眼鏡を目の中に入れるイメージです)。それぞれ2か所[遠・近]、3か所[遠・中・近]、5か所[近く~遠くまで連続的]にピントが合います。中心から木の年輪の様にそれぞれのピントの度数がレンズに入っています。1か所の見え方にはそこまでこだわりがなく、なるべく眼鏡をかけずに日常生活を送りたい患者さんが対象となります。
欠点としてはそれぞれのピントの「はっきりさ」は単焦点レンズに劣り、ハロー・グレアといって夜間の信号の光等がぼやけてみえます。夜間の運転をお仕事等でされる患者さんは適応になりません。薄暗い場所で小説の様な小さい活字を長時間見る場合には老眼鏡が必要になります。また、中等度以上の緑内障や黄斑疾患のある患者さんも不適応となります。
③焦点深度拡張型の多焦点レンズ
こちらはなるべく眼鏡はかけたくないけど回折構造のハロー・グレアを感じたくない方や、ごくごく軽度の緑内障や黄斑疾患があり、本来②を希望されている患者さんが対象となります。遠くから中間(パソコンやカーナビ等)までは裸眼で見ることができますが、近くを見る際には老眼鏡が必要となります。ハロー・グレアはごく軽度です(全くないわけではありません)。夜間の運転を頻繁にされる方も適応になります。
前述のレンズ以外にも、②と③を組み合わせたものや、②の派生型で同心円状にピントを配分するのではなく、「らせん状」にしたり「回折構造のギザギザをなめらかに」することで②の欠点であるハロー・グレアを抑えた眼内レンズ、③の焦点深度のピントの場所を左右のレンズで変えることで②と同程度の近くを見えるようにしたレンズもあります。
単焦点レンズは保険診療の白内障手術費用の中に含まれています。多焦点レンズは「選定療養」のものと、「自費」の2種類に分かれます。「選定療養」とは、眼内レンズの代金は自費で手術は保険による負担で済みます。「自費」の場合は検査・点眼・術後の診察や合併症発生時の対応も含め全て自費となります。近視がとても強い方は多焦点レンズの種類が限られる場合があります。
まず白内障手術をされる前にその病院・眼科クリニックがどういったレンズを取り扱っているのかお調べになった上で、どこの病院で手術を受けるか決められるのが良いと思います。「完璧な」眼内レンズは存在しません。将来どんな見え方にしたいのかということをしっかりと考えたうえで、自分に一番合ったレンズを選びましょう。
(T・M記)